ぼくを憐れむうた

ぼくを憐れむうた

日々の雑記や音楽のお話

ここは ぐちの はかば


とある海岸にて

理由は覚えていないが、ある日同期と夜中に海に行こうという話になった。せっかくだから後輩もめちゃくちゃ誘おうという話になった。

その結果、車2台で10人くらいで海に行くことになった。

せっかくだから少し遠くの海に行こう。

"せっかくだから"が大好きだった我々は”せっかく”にかこつけて後輩と同期と少し遠くの海へと出かけた。

 

車で30分程度だろうか、1時間程度だろうか、あまりはっきりと覚えていないが、その少し遠くの海は曰く付きの場所だった。

昔、拳銃自殺をした死体が発見されたとかなんとか。

それでも心霊スポットとは認知されておらず、やっているのか分からない旅館などがポツポツと建っている寂れた観光スポットであった。

家屋も立ち並んでいるのだが人が住んでいるのか疑うほど僻地だし、なにより不気味なほど静かな場所で家屋の中には廃屋となっているものもいくつかあった。

 

我々は車で到着すると早速海へと足を運んだ。

しかし時間は真夜中。さすがに泳いだりできる時間帯ではない。海を眺め、軽く足だけ水につけたり、山肌に登ったりして遊んでいたが、やがて疲れてそれも飽きてくる。

 

全員がそろそろ帰ろうか、と思っていた頃に1人がある廃屋を指さした。

「入ってみようよ」

指さされた廃屋はボロボロの廃屋で玄関の扉も無い二階建ての建物。

街の外れに位置しており、行き止まりになっている車道に面していた。その家を通り越せば行き止まりの奥は車道も途切れ森が広がっている。そんな場所だ。

 

少し不気味だったがちょっと探索するくらいならいいか、と軽い気持ちでぼくほそれを承諾したが、残りのメンバーは気味悪がって外で待機することになり我々の中から3人で廃屋に入ることにした。

 

廃屋の中は木片やら瓦礫やらでぐちゃぐちゃだったが、言い出しっぺはスマホの灯りを頼りにズンズンと奥へと入っていく。ぼくともう1人は足元に気を使いながらそれについていった。

言い出しっぺが階段にさしかかった所で声を上げた。

「なんだこれ?!」

慌ててぼくら2人も階段まで追いつくと、彼が驚いた意味がわかった。

階段が封鎖されているのだ。板かなにかが打ち付けられており登ることが出来ない。

「危ないから封鎖してあんじゃない?」

ぼくは登れない階段の先を見上げながら意見したが、彼は納得いってない様子で反論してくる。

「いや、これ下からじゃねえだろ」

…確かに。板は2階側から打ち付けられている。

時間も時間でスマホの明かり以外は真っ暗。そんな状況とその言葉が心臓の鼓動を少し早めた。

しかし、あまり大きい建物でもない。上から打ち付けても出る手段などいくらでも-

 

ドンッ!

 

その時、2階から何かを叩きつけるような音が建物中に響き渡った。生々しい鈍い音だ。

ぼくらは一瞬顔を見合わせた。

上から打ち付けられた板までは理解出来たが、この真夜中、封鎖された2階に人がいる…?

 

ぼくは即座に2人に帰ろうと呼びかけようとした、その時だった。

外から悲鳴が聞こえてくる。待機組の声だ。2階の音が外まで響いたのだろう。

絶対ここに居たら良くないことが起きる。恐怖に駆られた我々はすぐにぐちゃぐちゃの廃屋から飛び出した。

すると外の待機組も慌てて車に乗り込んでいるところだった。

こんな所に置いてきぼり喰らったらたまったものじゃない。我々もそのまま車に滑るように乗り込む。

程なくして全員揃ったのを確認して車で逃げるように走り出した。

 

「めちゃくちゃ怖かったな…」

海を離れたあたりでぼくがそう呟く。

「ほんとだよな…」

待機組だった運転手は苦笑いで返してきた。

 

…という出来事から2年以上経過して、飲み会でたまたまその時の話があがった。

 

「封鎖されてるはずの2階からドンッてすごい音が聞こえたんだよ!やっぱあそこなんかあるわ……そういやAちゃんもあの時いたよね?」

ぼくは酒を片手に酔っ払いながら、当時待機組にいた後輩のAちゃんに話を振った。

「そうですね、家鳴りさん関連で何回かホラー回ありましたね」

苦笑しながらAちゃんが酒を飲む。

「あの時の2階からした音って外まで聞こえてたの?待機組もめちゃくちゃ悲鳴あげてたよね?」

ぼくは残りが少なくなった缶を飲み干してAちゃんに尋ねるとキョトンとした表情を浮かべた。

「あれ?家鳴りさんたちは見てないんですか?」

話が噛み合わないことに少しだけ嫌な予感を感じる。

「…何を?」

恐る恐るぼくはAちゃんに尋ねてみた。

 

「私達が悲鳴を上げたのは2階の音?じゃなくて、通行止めになってる道の向こう、森の中からこっちに近寄ってくる人影が見えたからなんですけど…あれ、見てないんですか?」

 

その言葉を聞いた瞬間に背筋がゾクっとした。

ずっとあの音で全員が踵を返したものだと思っていた。

だけど違ったんだ。ぼくらが音に慌てて飛び出したあの時、誰か、…いや何かがこちらを見ていたんだ…

「マジで…?」

会場が静まり返る。

その人影は果たして人間だったんだろうか。真夜中に山奥から近づいてきた人影は。もしあの時、その人影に待機組が気づいていなかったら…どうなっていたんだろうか。

ぼくは意味のない自問自答を忘れるためにグラスに強めの酒を注いだー…