ぼくを憐れむうた

ぼくを憐れむうた

日々の雑記や音楽のお話

ここは ぐちの はかば


え?歌詞?メロディと一緒に””””下りて””””くるかな

先日、ささやかな新年会があった。

同期と話す機会があるという非常に珍しい飲み会だったのだが、終盤でオリジナルソングを作れる同期の女の子と少しオリジナルのことで話が膨らんだ。

少し補足しておくと、ぼくの所属していた音楽サークルではコピバンが主流であり、オリジナルの曲を作る人はほとんどいなかった。そのため、基礎的な音楽理論などを把握してる人間もおらず、作曲に関して話ができる人間はほんの一握りだ。

そんな環境の中、このブ…女の子はどういうカラクリなのかよくわからないが、作曲ができる稀有な存在なのである。

 

ぼく「どうしてもコードから作っちゃうから、メロディが後付になっちゃうんだよね」

女の子「あーね。私はこうしたいってのをサビで決めて…」

ぼく「ん?サビからつくんの?」

女の子「割とそうかな」

ぼく「サビのコードから作るってこと?」

女の子「コードは後付かな」

ぼく「ん?じゃあメロディ先行ってこと?」

女の子「やっぱり、歌いたいことを歌にするわけだから、歌詞から…ていうか、歌詞はメロディと一緒に下りてくるかな」

 

…?

下りてくる?

歌詞が?

メロディと?

一緒に?

 

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な~にを言ってんだ?はあ?んなことあるわけないじゃんwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww…ないよね?

だが、思い返せばこのブス、前話したときもメロディラインがコードと一緒に…とかなんとか言っていた気がする…

…えぇ……そんなことあんの…?そんな人いんの…?歌詞とメロディラインが同時に下りてくるってぇ…?てか、メロディにコードがつけられる時点で、実質歌詞とメロディとコードが同時に下りてきてるようなもんだぞ、こんなの…

おいおいおい…おいおいおいおい…あり得るか?そんなこと。きめえ…きめえわー…

 

女の子「これ、歌詞」

 

スマホを手渡された。それを覗き込むとメモ帳に綺麗に分けられた文字列。読み進めれば、それが買い物のメモでもなければ日記でもないことがわかる。歌詞だ。歌詞歌詞している歌詞だ。ポエム紛いじゃない、しっかり歌詞だ。

 

女の子「あ、これ、音源残ってた」

 

なあにこのリズム…なあにこの曲…まぁでもギター入れるなら…んー…ここでこうして…コードはいらんか…リフっぽく…あぁ、いかんいかん、他人の曲だ。酔った頭にシャレオツなバンドサウンドが聞こえてくる。

 

ぼく「…まぁ、いんじゃない」

 

苦し紛れに笑いながらぼくは、一番らしきところを聞き終えた所でスマホを返した。

 

女の子「ははは、私はメロディメーカーなのだw」

 

おい、単芝生やすな殺すぞ!!!!!!!!!!じゃなくて…

いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーまあ、凄い。バンドサウンドに関しては、彼女はピアノプレイヤー兼ベーシストだからギターとドラムは自分でプレイすることはできないにせよ、知識はあるだろうからバンドサウンドになった際に明確に指示が飛ばせるだろうし、ピアノやキーボード、もしくはベースであればなんのそのであろう。

で、曲だが、メロディがまー曲なんすわ。ぎこちなさがない。作りたくて作ったんだろうなって感じ。歌いたいように歌ってんだなって感じ。気持ちいいんだろうなって感じ。

ぼくの作曲とは比較にならないほどクオリティが高いだろう。

どういう音楽に影響を受けてるのか非常に気になるところだが、それ以前に

 

ぐやじいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

 

正直、理論に関しては俺もそこそこ理解してる。ダイアトニックスケールを基本として、移調だってぎこちないが時間をかければできないことはない。

だが、いまだかつてメロディと歌詞が同時に下りてきたことなんかないし、ギターを弾いてバッキングの上にメロディラインを乗っけていくスタイルでしか作曲できない。それにリズムもどうしてもありきたりなものになってしまう。

ぶっちゃけ、ここまで来るともうセンスでしかない。音楽をやってる人間なんて腐るほどいるだろうが、その中で音楽が多様に存在するのはそれぞれ個々人のセンスが多様だからだ。例えば、米津玄師の曲を弾き語りすることは大抵の人間からしてみればお手の物だろうが、誰しもがLemonを作れたか、と問われれば答えはNoだろう。

知識がある、ということと、それを遺憾なく発揮できる、という行程を可能にさせるセンスには雲泥の差があるということだ。知識があってもアウトプットできなければ意味がないし、独自のアウトプットができるかどうかが作曲の上手い下手なのだ。

 

はァー…きめぇ…なんでそんな曲作れんの…普段何食ってんだよ…きめぇ…

 

歌詞を見て、曲を聞いた後、彼女が帰るまでひたすらため息をついていたと思う。

今度は後輩とウェディングソングでも作ろうか、なんて話していて、曲のメロディラインとコード進行がいい感じにできていただけに、力の差を見せつけられたのは非常に筆が重くなる。その日は帰ってギターが弾けなかったなあ。酔い過ぎたってことにしとこう。

 

とは言え、心のどこかで”これ”を喜んでる自分もいる。彼女の技術に打ちのめされたことを喜んでいるんじゃなくて、同期が未だに”凄い存在”であってくれることを喜んでる自分もいるのだ。

もう卒業して何年経っただろう。同期はほとんど楽器を辞めてしまっただろう。後輩もほとんどが楽器を弾かない日々を過ごしていると思う。

そんな中、サークルのやばかった奴らは未だに上手いんだ。

もう去年の出来事になってしまったが、春が終わった頃のOBOGお泊り会にて、少し遅れて会場に来た同期が先輩に囃し立てられて弾き語りを披露させられていたのを覚えている。彼がギターを弾いて歌い始めると、しょーもない話で盛り上がっていたロビーが水を打ったように静まり返って彼の弾き語りに耳を傾けた。彼は上手いのだ。

ワンコーラス歌い終えると先輩が笑って「ありがとう」なんて言って、同期の彼も照れくさそうにギターを置いた。

どうだどうだ、俺の同期は!上手いだろう!…その時俺は、悔しいが少し誇らしげな気持ちだったのだ。

今回もそんな気持ちが少なからずあった。どうだ、俺の同期は!凄いだろう!俺よりもよっぽど作詞作曲が上手いんだぜ!普段はマジでしょーもない奴だが!音楽に関しては凄いんだぜ!

もうぼくらは同じ音楽サークルに所属している訳ではない。でも、それでも、できれば来年も再来年も”凄く”あってほしいな。やっぱ敵わんなぁーって思わせてほしい。ワガママだし、本人に言うことも一生ないけど、俺は君らを尊敬していて、いつか同じ土台に立てたらなって思ってるんですよ。だからどうか音楽を止めないでおくれな。なんてな。

 

…とは言え、クソ女よ。高飛車な態度は今すぐやめろ。飲み会だけでドン引き発言は多数あったからな。絶対俺より早く死んでくれ。