若者のすべて
今日バイトしていたら店内のU-SENからフジファブリックの「若者のすべて」が流れてきた。
珍しいこともあるもんだ。というのも、昔の曲がU-SENにピックアップされることはあまりない。
「最後の花火に今年もなったな」
志村がそう歌う。
そう言えば、今年は花火なんか音しか聞いてねえ。気づいたら夏が終わっていた。
けれど、「花火」そのワードを聞くと、いつもとある知人を思い出す。
確か大学2年の夏頃だったと思う。ぼくはバイトも学校もない日々に部屋でダラダラしていた。すると突然部屋のインターホンが鳴った。
なんだ?宗教の勧誘か?こんな真夏日の夜にご苦労なこった…
ぼくはため息を吐いて玄関の扉を開けた。
「お久しぶり」
扉の先にいたのはサークルの同期のK君だ。そこそこ仲が良かったが、それも所詮1年未満の付き合い。高校の同級生の方がまだ交流があったくらいだ。
ぼくはどうも、と返事をして何か用事があるのかを尋ねる。
「今日は隣町で花火大会があるから見に行こうよ」
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2人で??????なんで???????
彼には彼女がいた。大学入学から付き合っている彼女だ。
いや、2人で行けよwwwwwwwwwwwwとぼくは心底思った。なんでぼくと2人なんだよwwwwwwwwwとぼくは心底思った。
が、結局2人で隣町の花火を見に行くことになった。
「おおー…」
「結構すごいね」
当たり障りのない会話。程なくして花火は打ち終わり、帰宅することになった。
翌年、夏。ぼくはバイトも学校もない日々に部屋でダラダラしていた。すると突然部屋のインターホンが鳴った。…身に覚えがある展開に少し身構えて玄関を開ける。
「お久しぶり」
一年ぶり、二回目だ。しかも3年生ともなると彼とも普通に仲が良くなっており、普段もよく会っていた。というか前日も会っていた気がする。全然お久しぶりじゃなくなっていた。
で、彼は当時も入学当初と同じ彼女と付き合っていた。
なのになんでまたぼくと2人なんだよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
この奇妙な花火観光は年々ひどくなっていって、徐々に見に行く花火大会が増え、彼が卒業するまで続いた。
彼との関係は非常に奇妙だ。
サークルで仲が良かった同期とは軽口を叩きあったものだが、ぼくが彼をいじることも彼がぼくをいじることも非常に少なかった。誰かが彼をいじることも非常に少なかった。
ルックスもどちらかと言えばイケメンだし、立ち振舞いも大人っぽい。ルックスは目も当てられずに子供っぽいぼくとはなんとも対象的な存在だ。
趣味もほとんど合わない。彼はスポーツが好きだがぼくは全く興味がない。彼はゲームが好きだがぼくは全く興味がない。音楽の趣味もほとんど合わない。
なのに、大学生活でやたら彼と一緒に居た気がする。
少し話が逸れるのだが、ぼくは大学1年生でサークルに入部した。そこで当時1年生だった奴らとバンドを組んだのだが一年もたずに崩壊してしまい、2年生の頭にはバンドが1つも無くなってしまった。
何も無くなってしまった、と呆気にとられていた所、K君が突然一緒にやろうと持ちかけてきてくれた。
しかし、当時ぼくはギターを全く練習しておらずお世辞にも弾けるレベルにも達していなかった上、サークルにはギター人口が氾濫しておりぼくを選ぶメリットなど何もなかった。
それなのに何故か彼はぼくに白羽の矢を立ててくれた。
それは一回きりの出演だったのだが、秋には後に4年まで続くバンドを彼と組むことになる。
花火の件と言い、彼は何故か何かとぼくを気遣ってくれていたんだと思う。
最後のライブ。2年の秋に組んだバンドの最後のライブではMCで彼が泣きながらバンドメンバーへのメッセージをくれた。
「曲を選んでいるのがすごく楽しくて、曲を聞いていると、このギターを家鳴りくんが弾いてくれるんだと思って……」
変な話なのだが、ぼくは彼と組んでいたコピバンのコピー元に死ぬほど興味が無かったし、今も興味が無い。この先も一生興味を持つこともないし、ましてやそのコピバンなど一生組むことはないだろう。
何故ぼくがそんな興味のないコピバンを4年生まで続けたかと言えば、それはK君がいたからだ。
彼には恩があった。2年生の初頭、バンドが崩壊して完全に行く末を見失ったぼくを誘ってくれた恩。何もない夏休みに彼女と行けばいい花火に誘ってくれた恩。飲み会でも女の子と話に行けばいいのに、隅で煙草吸ってるぼくと話してくれていた恩。全然趣味も合わないはずなのに、すごく良くしてくれた数々の恩があったのだ。
彼がそれで楽しかったのかどうかはわからない。けど、ぼくは楽しかった。だからバンドも楽しかった。
彼は4年の解散ライブでバンドメンバーへ感謝を述べていたけれど、今でもぼくは逆にぼくが受けた彼からの恩恵の方が遥かに上回っていると思ってる。
彼は卒業して遠くへ行ってしまった。年に一度会えればいい方だろう。
だが、どれだけ離れても、会う機会が減っても、友達ではいられると思う。ぼくは長年”友達”の定義について決めかねていたけど、長年の協議の結果
「どれだけ久しぶりに会っても昨日会ったかのように話せる」
ことができれば友達だと思うことにしてた。
ならば大丈夫だろう。
きっと彼はこの先いつ会っても、ついこの間会ったかのように
「お久しぶり」
と言ってくれるはずだ。
U-SENの若者のすべての歌に、なんとなくそんなことを思い出していた今日一日だった。
フジファブリック 「若者のすべて」 Live at ryogoku kokugikan
そのせいで全く就活について進展がない一日だった…………・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・