ぼくを憐れむうた

ここは ぐちの はかば

ここは ぐちの はかば


ぼくら、失ってはいけないものがある。

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※画像は記事に一切関係ありません。

Hello world.

まだ暑さが残る9月ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか?ぼくはサークルの合宿に顔を出しに行っていました。楽器も持っていったのですが、帰ってきたらチューナーとシールドが無くなっていました。死ね。元払いで送れ。でもって死ね。

ところで、ぼくはもうOBなのですが、現役の頃は毎年合宿があって毎年参加していました。「合宿」と聞くとあの若かりし日を思い出すのです…………(暗転)

そう、あれは2,3年前-

「移動が長そうだよなぁ…」

Sは気だるそうにそう呟いた。彼は同じサークルの一員で、学年はぼくと同じだ。

「確かに道中暇そうだね」

ぼくも頷いて返事を返す。

今日は合宿前日だ。ワクワクしながら、何をするでもなくSと2人でぼくの部屋にいた。他愛もない話を続けていると、ふと思い立ったようにSがパチン、と指を鳴らす。

「道中から酒飲んでけばいいんじゃない?」

名案を思いついたかのように、嬉しそうな表情を浮かべるS。そのアイデアを受けて、ばかなぼくもなるほど、と頷いた。

合宿先までの道のりはバス移動で、向こうについてからも運転する必要は無い。つまり飲酒していて決定的なデメリットがないのだ。

そうと決まれば、と彼と2人で急いでビールを買いに出かけて、その日は床に就くことにした。

合宿当日-

ぼくは昨日のビールを抱えてバスに乗り込むと、後ろの方に同じ学年の男性陣がなんとなく集まっていたので、持ってきたビールを取り出してそこら辺に集まっていた奴らに缶を配っていった。彼らも多少困惑していたものの、楽しみなイベントということもあってか酒を受け取ってくれた。

「では僭越ながら私が音頭をとらせて頂きます…」

全員にビールが行き渡ったことを確認してその場で乾杯の音頭を取り、飲み会のようなテンションで合宿が幕を開けた。

ぼくらはバスで道無き道を走り出した。

「ハッハー!!山と田んぼしかないぜ!!」

「緑多すぎて視力回復しそうだぜ!!」

「この長い長い下りー坂をー♪」

ビール片手に上機嫌な一行だが、このバスにはほかの学年も乗っている。酒を飲んでない後輩からすればさぞかし鬱陶しく思えただろう。

しかし時が経ってくると、やかましかったぼくたちも徐々に落ち着きを見せ始めた。

いや、正確には落ち着いたわけではない。焦り始めたのだ。

最後のサービスエリアを出てからかなり時間が経っている。計画上はそろそろ次のサービスエリアに着くはずだ。しかし、バスは先程からかなり遅いスピードで進んでいる。ぼくらは「渋滞」に巻き込まれたのだ。

 

最初に異変を見せ始めたのはSだった。

「…漏れる」

聞き取りづらかったが、彼がそう言ったことはしっかり聞こえた。なぜならぼくも漏れそうだからだ。

そうなるのも無理はない。サービスエリアを出てからもビールを飲み続けていたのだから。利尿作用があるアルコールを摂取し続けていたのだから……ッッ!!

「…漏れる」

先程よりもしっかりSが発音した。でも言い直す必要など全くなかった。同じ境遇に陥っているんだ。むしろ今は排泄に関する単語を聞きたくないくらいだ。

次に、同じくビールを飲んで饒舌に話していたHも顔色が悪くなっていた。悪い顔色でいつの間にかミンティアをバリボリ食っている。どうやら彼も排泄を我慢しているようだ。

あと何分で着くかさえ分かれば耐えようがあるが、渋滞に巻き込まれていては目処すら立たない。つまり、いつまで続くかわからない地獄にひたすら耐えなければならないのだ。

しかもよりによって合宿先は田舎にあり、そこまで舗装されている道路もかなり状態が悪い。バスがガタゴト揺れるってわけだ。バスが揺れるとぼくも揺れるってわけだ。揺れたら膀胱ダメージがあるってわけだ。

そんな試練に耐え続けていると、ついにバスは進むのを辞めてしまった。完全に停止したのだ。その事実に、ぼくは頭が真っ白になってしまった。

「漏れる」

もうSは頭に三点リーダも付けなくなってしまった。かなり限界が近いようだ。Hは相変わらず無言でミンティアを噛み砕き続けている。こっちもそろそろか…他の面々も、ぼくらほどはないにせよ排泄を我慢しているようだ。

まさに地獄絵図。会話でもしていれば気が紛れるかもしれない。しかし、限界まで尿意を我慢した状態というのは、できるだけ体を動かしたくなくなる。仮にそれが口だろうと動かしたくない。

このまま限界がきたらきっと漏れる。何をしてても勝手に漏れると思う。だけど後悔だけはしたくない。言い訳もしたくない。漏れることがあっても、最後まで戦い抜きたい。ぼくはぼくの死を死にたい。

 

停止してどれくらい経っただろうか…今にも気を失いそうな状態で外の景色を眺めていると、Sが何やらガサゴソ動き始めたのが目に入った。

嫌な予感がする…そんな気持ちを払拭するためにも、ぼくは慌てて、なおかつなるべく体への負担を少なくしながらSの方へ向き直り、そして問いかけた。

「な、なにしてんの?」

「見ないで」

Sはぼくの質問に間髪入れずに返答してきた。

こいつ、やる気だ。

チラリ見えた彼の握るペットボトルが彼の覚悟をそのまま表している。

しかしぼくも友人である彼に人の道を外れて欲しくない。説得しよう。そう心に決めて、決死の説得を試みることにした。

「ま、待てよS君。それは、一線を越えることになるぞ」

「あっ…」

彼は聞いちゃいなかった。彼が排出した滴る水音がバスの中にコダマする。

ギョッとした顔で周囲のメンバーが彼の方を見る。彼はそれを察知したかのように、

「見ないで」

そう言い残し、そして果てた。

 

残りはぼくとHの2人だ。ボトラーを見届けた後、少し経つと徐々にバスが動き始めた。しかしまだ時間はかかりそうだ。

「まだ結構ありそうだなー!大丈夫かー?」

「お、景色すごいいいぞー!」

「この長い長い下りー坂をー♪」

Sは上機嫌でぼくらに言葉を投げかけてくる。まるで1抜けた、とでも言いたげな清々しい表情だった。心の底から「負け犬が……」と思ったが、今は彼の言動に突っ込んでいると、恐らくこちらの膀胱が耐えられない。

しかし、まだ距離があることを考えると、ぼくの頭に何度もペットボトルがよぎる。

 

ここでしちまえばいいんじゃあないか?

漏らさないことが重要なんじゃあないのか?

仮に後ろ指指されて生きることになっても、気丈に生きていけばいいんじゃあないか?

 

乾いた笑いがこみ上げる。もう充分に戦った。そろそろ楽になってもいいのかもしれない。

横には飲みかけのペットボトル。これを飲み干して、そしたらぼくは………

 

不意に先ほどの思考が蘇る。

漏れることがあっても、最後まで戦い抜きたい。ぼくはぼくの死を死にたい。

そう心の中で漏らしたのはぼく自身じゃないか。漏らすのは心の中だけでいい。ペットボトルは失禁と同義だ。ならばペットボトルは不要。本当に漏らす時はパンツの中でッッッ!!

ぼくはペットボトルに伸ばしかけた掌をギュッと握り直した。

確かにぼくは頻尿で、これまでにも尿意を長時間我慢し続けたことが何度もあった。時には漏らした。毎回、もっと膀胱が強ければ、と思ったものだが、それはきっとこの日のため。ここで経験が生きるんだ。

 

共に耐えているHの呼吸が徐々に早くなっていく。ぼくの鼓動も徐々に早くなっていた。だが、それに呼応するようにバスのスピードも徐々に早くなっていく。

目的地がようやく見え始めた。周りも固唾を飲んで様子を伺っている。

バスは、アスファルト、タイヤを切りつけながら、酷道走り抜ける。

ぼくは、チープなスリルに身を任せても、明日に怯えていたよ。

終着

バスは遂にサービスエリアに辿り着いた。

ぼくは後ろの方に座っていたが、止まった瞬間に誰よりも早くバスを駆け下りた。走る振動の度に漏れそうになる。そんな気持ちを必死で押さえつけて、周りの目も気にせず、ぼくはトイレに猛スピードで駆け込んだ。

チャックを開けながら便器の前まで行き、そこでようやく、尿を、排出した-…

堰を切ったかのように流れ出る液体を全身で感じ取りながら、かなり長い時間排尿を行う。

ふと、横に人の気配を感じたので視線を移すと、そこにはSがいた。こいつさっき散々ペットボトルしてたくせにまだ出るようだった。

「俺は負けちまったけど…お前、よく頑張ったよ。」

彼が排尿をしながらぼくに語りかけてくる。ふと目頭が熱くなった気がした。もう合宿なんてどうでも良くなるくらい、暑い、いや、熱い残暑がそこには在った。

 

ぼくら、失ってはいけないものがある。だけど、失ってはいけないものを失う日も来るかもしれない。それでも、仮にそんな日が来ても、後ろなんか向かずに前を向こう。きっとその先に得られるものがあるから………………

 

p.s

その年の合宿では風邪をひいて寝込みました。